「時流を読む サプライチェーン戦略の羅針盤」 10月16日号
中長期計画の提出はお済みですか?
期限まで約1カ月、荷主に計画を求める国の狙いと、現場の戸惑い
2026年4月に全面施行された改正物流効率化法は、一定規模以上の荷主を「特定荷主」に指定し、物流効率化の計画を国に出すよう義務付けました。初回の期限は10月末。残る時間は1カ月を切りました。対象の荷主にとっては目前の締め切りですが、この計画は、書類を出して終わりという性格のものではありません。国はなぜ、荷主に計画を求めるのか。計画づくりの現場では、何が起きているのか。制度の狙いを押さえたうえで、寄せられた声を拾っていきます。
なぜ国は、荷主に「計画」を求めるのか?

出発点は、トラックドライバーの不足です。国は、民間調査機関の試算を基に、何も対策を講じなければ2030年度に輸送力が約34%不足すると見てきました。国の「2030年度に向けた総合物流施策大綱に関する検討会」が26年3月にまとめた提言は、官民の取り組みで約14%分はおおむね克服できたとしつつ、2030年度の不足は平均で約7%、最大で約25%に上りうると再検証しています。幅は縮んだものの、安心できる水準ではありません。
運び手を増やすだけでは、この穴は埋まりません。商品の売り買いの条件は発荷主と着荷主の間で先に固まり、運送の契約はそれに合わせて組まれます。運送事業者が自力で動かせる余地は、限られることが多いのが実情です。提言は、契約にない作業を頼まれたり、長く待たされたりする例も見られると指摘しています。国の25年度の調査にも、手作業の荷下ろしが続き、荷待ちが5時間を超える現場があるという事業者の意見が寄せられました。運送事業者だけでは解けない問題に、荷主を当事者として正面に据える。法改正の背景には、そうした認識があるのだと思います。
制度が動き出したのは25年4月です。すべての荷主と物流事業者に、積載効率の向上、荷待ち時間の短縮、荷役等時間の短縮という3つの努力義務が課されました。25年度の調査では、ドライバーの1運行当たりの平均拘束時間が10時間13分と、前年度より1時間33分短くなりました。短縮分の大半は荷待ち・荷役等の時間で、1時間16分減って2時間2分になっています。国は、努力義務の施行が各社の取り組みを促したとみています。
政府は28年度までに、ドライバー1人当たりの荷待ち・荷役等の時間を年間125時間減らし、トラック全体の積載効率を44%に高める目標を掲げています。そのためには、1運行当たりの荷待ち・荷役等を全国平均で2時間以内に収める必要があるとしています。
そこで、26年4月から、大手の荷主に一段踏み込んだ義務が加わりました。中長期計画の提出、毎年度の定期報告、そして物流統括管理者(CLO)の選任です。計画は「何をやるか」の約束、定期報告は「どこまで進んだか」の点検にあたります。
取り組みが国の示す判断基準に照らして著しく不十分と判断されれば、勧告の対象となり、従わなければ公表される場合があります。計画を出さなければ50万円以下の罰金、CLOを選任しなければ100万円以下の罰金が科される可能性もあります。一方、計画を達成できなかっただけで罰則を受けることはありません。罰するための仕組みというより、改善を回すための道具として設計されていると、私は受け止めています。
CLOは、経営の重要な意思決定に加わる役員など、経営幹部から選びます。計画をまとめるだけでなく、設備投資やデジタル化の判断を下し、開発や調達、販売、物流の各部署をつなぐ調整役も担います。物流を現場の改善から経営の課題へ引き上げる。制度の核心はここにあるでしょう。
計画には何を書き、誰が出すのか?

対象となる荷主は、年間の取扱貨物重量が9万トン以上の事業者です。重量は、運送を委託する立場と荷物を受け取る立場に分けて数えます。フランチャイズチェーンの本部にあたる連鎖化事業者も含まれ、トラックや倉庫の事業者には別の基準があります。
大手から順に国内の貨物量の半分ほどを捉える水準として国が定め、上位3200社程度を想定しました。26年7月9日時点で、荷主と連鎖化事業者を合わせて3299社から届出がありました。指定を受けた事業者の一覧は、7月29日時点の分が公表され、以降も随時更新される予定です。
計画に書くのは、積載効率、荷待ち時間、荷役等時間の3領域で、期間は最長5年です。すべてを網羅する必要はなく、課題の大きい運行や拠点に絞って構いません。実施する措置と、その具体的な内容や目標、実施時期を示します。「通年」と書くだけでは足りず、「2026年度から2028年度」のように年度で区切ります。初回の期限は10月末で、2027年度以降は毎年7月末です。CLOの選任届は、指定後速やかに、遅くとも計画の提出までに済ませます。

荷主といっても、扱う荷物も拠点も取引先も違います。そこで国は、取り組みの中身を細かく決めず、物差しとなる判断基準だけを示しました。計画に落とし込む作業は、各社に任されています。この裁量の大きさが、次に紹介する戸惑いの背景にあります。
「何をどう書けばいいのか」と迷うのはなぜか?
今春以降、提出を控えた企業から、私のもとにも数多くの相談が寄せられています。ある卸売業の担当者は、他社の計画書や定期報告書を参考にしたいが、手に入らないかと尋ねてきました。省庁にサンプルはないのか、とも聞かれました。
悩みは続きます。そもそも自社はどの省庁に出せばいいのか。他社は何をやろうとしているのか。自社の計画は世の中の流れから外れていないか。計画の達成度が問われるなら、目標を小さめに置いて確実にクリアする企業が出てくるのではないか、との懸念も聞きました。
どれも、制度に真剣に向き合うからこそ出てくる疑問です。迷いは制度設計の裏返しでもあります。自社で具体化する余地が大きいほど、白紙に向き合う感覚になるからです。国は、製造業、卸売業、小売業、連鎖化事業者の4種類ごとに、「取り組みが進んでいる企業向け」と「これから取り組みを深める企業向け」の記載例を公開しました。書き方で足踏みする企業が出ることを、国も見込んでいたのでしょう。
それでも迷いは残ります。一つは提出先です。国の電子申請システム「e-Gov」では、主たる事業を所管する省庁の手続きを選び、ほかの事業の所管省庁を同じ手続きの中で追加します。何が主たる事業かは、貨物の取扱規模、従業員数、収益の構成などを見て、自社で決めます。国の所管一覧を見ると、酒類を除く飲食料品の売買は農林水産省の所管です。ところが、卸売業の記載例を作成したのは経済産業省です。

もう一つは、他社の中身が見えないことです。指定事業者の社名は公表されましたが、提出された計画書を見られる仕組みは、私が確認した範囲では見当たりません。手がかりになるのは、国の取り組み状況調査くらいです。25年度の調査では、リードタイムの確保に取り組んでいると答えた荷主が85%、バース予約システムを導入していると答えた荷主が24%でした。
国も、初めての制度に手探りで向き合っています。経産省は説明会の資料で、記入ミスや問い合わせが相次いでいると明かし、提出前に注意点の資料に目を通すよう求めました。検討会の提言は、中長期計画と定期報告の運用で、制度を機能させつつ、事業者の負担を重くしすぎない姿勢を示しています。誰にとっても初めての試みですから、試行錯誤は当然でしょう。迷いは制度の不備というより、新しい仕組みが根づく途中の摩擦だと、私はみています。
対象外の荷主は、傍観していてよいのか?

いまの基準が捉えているのは、国内の貨物量の半分ほどです。残る半分は、特定荷主の義務の対象外にあります。
国も、この基準を不変とは位置付けていません。経産省のパンフレット(2025年4月時点版)の注記には、法が事業者にどこまで根づくか、社会の状況がどう動くかを見て、国が基準を改める可能性があると書かれています。検討会の提言も、中小や地方の企業を含む全国の荷主が自主的に改善へ動くよう、取り組みの度合いを格付けなどで見えるようにする仕組みの具体化を掲げました。
対象の見直しは遅かれ早かれ実施されるでしょう。規制は、まず大手で運用を始め、のちに横へ広げる例が少なくありません。例えば、働き方改革による時間外労働の上限規制も19年4月の大企業から始まり、中小企業は20年4月、トラックドライバーは24年4月と、段階を踏んで広がりました。ドライバー不足も環境負荷も、貨物量の半分だけが動いて解ける問題ではないからです。
もっとも、見直しを待つ必要はありません。25年4月から、すべての荷主に荷待ち時間の短縮などの努力義務が課されています。判断基準には、荷物を受け取る側の第二種荷主に対する定めもあります。運送を委託する側の第一種荷主が、積載効率を上げるために受け渡しの日時を調整したいと申し出たら、応じて協力する、というものです。取引先が特定荷主なら、そうした相談が届く可能性は十分にあります。
備えは難しくありません。自社の年間の取扱貨物重量はどの程度か。荷待ちや荷役にどれだけの時間がかかっているか。取引先に相談を持ちかけられたとき、数字で答えられるか。ここまで整っていれば、基準が動いても慌てずに済みます。

いまの試行錯誤を他人事として眺めるのか、先に学ぶ機会とするのか。その差が、数年後にどう表れるでしょうか。




刈屋大輔(かりや・だいすけ)
ジャーナリスト/青山ロジスティクス総合研究所代表。専門紙「輸送経済」記者、「月刊ロジスティクス・ビジネス」副編集長などを経て現職。著書に『知識ゼロからわかる物流の基本』『ルポ トラックドライバー』など。「LOGISTICS TODAY」編集委員を兼務。物流・ロジスティクス分野の最新トレンドをわかりやすく解説するnoteマガジン「物流ニュースなび」を無料配信中。
https://note.com/clever_spirea107
